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法律相談 弁護士 松本 裕美 先生

民法(債権法)の改正 相殺禁止に対する見直し


Q.質問

 私は、甲さんからお金を100万円借りていますが、先日、私が自転車に乗っているとき、甲さんの運転する自動車と衝突し、自転車(30万円)が全損、私も治療費が20万円かかるケガを負いました。甲さんは自分の不注意でと平謝りであるものの、出来れば貸金と衝突事故による損害賠償とを相殺して簡略に解決することを希望しており、反対に私は、現実に損害賠償が支払われることを望んでおります。どのように考えれば良いでしょうか。

 

A.回答

  改正法により不法行為債権を受働債権とする相殺禁止の範囲が変更されました。

 旧法は不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は債権者に対抗できないものとし、過失による不法行為に基づく損害賠償請求権も相殺禁止の対象としていました。このような相殺禁止は現実の給付を被害者に受けさせるという被害者の保護と、報復的な不法行為の誘発防止を趣旨としていました。しかし、被害者に現実の給付を受けさせる必要性があるのは、例えば安全配慮義務違反という債務不履行に基づく損害賠償請求権でも同様です。また、損害賠償請求権を受働債権とする相殺を禁止しても、過失による不法行為を防止することはできません。

 そこで、改正法は、相殺をもって債権者に対抗できない受働債権の範囲を「悪意(他人を害する積極的な害意)」による不法行為に基づく損害賠償請求権に限定しました(改正民法509条1号)。また、人の生命または身体の侵害に基づく損害賠償請求権は、不法行為債権に限らず、これを受働債権とする相殺を債権者に対抗できないものとしました(同条2号)。このようにして、報復的な不法行為の誘発防止と、生命身体を侵害された被害者の保護を図ったのです。但し、「悪意」による不法行為に基づく損害賠償請求権、及び、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を、他人から取得した債権者に対する関係では、これらを受働債権とする相殺は可能としました(同条但書)。このような債権者は、現実の給付を受けさせて保護すべき被害者ではないからです。

 改正民法をもとに、ご質問の問題を見てみますと、甲さんの、「悪意」ではなく過失による事故ですので、自転車の全損分30万円の損賠賠償については、甲さんは貸金と相殺することができますが、相談者が受けたケガの治療費20万円については相殺は許されず、甲さんは相談者に20万円全額を現実に支払わなければなりません。