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高齢者の入院は、時としてせん妄状態、認知症を引き起こすことがある。

 「お年寄りが入院するとボケる」とよく言われます。この「ボケる」とは「せん妄状態」になったり、「認知症状態を引き起こすことを意味します。
 せん妄状態とは、意識障害の一種で、意識混濁、錯覚、幻覚、妄想や興奮を伴う状態です。入院は、せん妄を引き起こすきっかけとなります。
 日常生活を普通にできていた高齢者が、入院や手術など高度のストレスが掛かるような状態において、一時的なせん妄状態や、認知機能が普段より低下することは、しばしばあることです。この場合、病状が落ち着いて退院すると、その方の認知機能は元に戻ることが多いのですが、中にはそれが退院後も長期間続いたり、改善はしても元の状態に戻らないこともあります。

認知機能が、元の状態に戻らないのは一体どのような場合?
 入院中に認知機能が悪化して退院し、その後も入院前より悪い状態が続いている場合、患者さんのご家族からよく受ける質問は、『この認知機能の悪化は、もう治らないものなのか』、『時間がたてば、改善するのか、もし改善の可能性があるとすれば、それはどの位の期間なのか』、というようなことです。

 一般的な感覚としては、
①入院などのストレスに曝される前から、軽症であれ認知機能の低下がみられる方が、よりダメージが大きいのではないか。つまり、高齢者や軽度の認知症のある方のほうが、そうでない方よりも、ダメージを受け易く回復しがたいように思われます。
②もう1つは意識レベルの低下が極めて高い方が、より認知機能へのダメージも大きく、元に戻りがたいように思われます。
 ただ、こうした点を厳密に検証したデータは、あまり存在しません。また、回復するケースもあるということも、経験的には事実と思われます。しかし、具体的にどの位で元に戻るのでしょうか?、という質問にお答えできるような明確な検証データもありません。

MMSEと呼ばれる認知機能の検査があります。
 この検査は日本の「長谷川式」に似た、認知症の比較的簡便な検査で、現在では日本でも広く使用されています。点数は30点が満点で、21点以下が認知症、26点以下で認知機能の低下が疑われます。

 ここに、この認知機能の検査を利用して術後にせん妄状態を起こした場合の報告が一つあります。認知機能の低下は、手術直後には著明に低下し、点数のみで見ても、せん妄のない方とは7点くらいの差が付いています。更にはその回復も遅く、手術後1ヵ月の時点で、手術前の状態に回復した患者さんは全体の3分の1に満たず、半年後に6割、1年後でも3割を超える患者さんが、術前の状態には戻っていません。
 しかし、そうした元に戻っていない患者さんでも、さらに長期でみると、ゆっくりではありますが、回復はしていると報告されています。勿論、例外はあるでしょうが、たとえば退院して半年を過ぎても、回復が思わしくないからといって、それであきらめるは早過ぎます。問題はゆっくりであっても、回復基調にあるかどうかで、そうした傾向が存在すれば、1年後にはより回復している可能性が高いのです。

 回復するかどうかは、回復の傾向がみられるかどうかが非常に重要です。そのためには、定期的な認知機能の検査が不可欠です。もし皆さんのご家族がそうした退院後の認知機能の低下を来し、主治医の先生がそうした検査をしてくれなかったら、是非やってもらえるように、お話をしてみて下さい。長谷川式でも構いません。たとえ半年を過ぎていても、僅かでも点数が改善しているとすれば、まだ回復の余地は充分残っていると考えるべきです。

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