私は賃貸マンションを所有しています。数カ月前、賃貸借条件について既に合意している入居申込者から、「急ぎ入居したい」と言われたので、取り急ぎ、鍵を申込者に渡しました。同日から申込者は使用を開始しています。数日後、合意内容どおりの賃貸借契約書を申込者に届け、至急、署名・捺印して返送してほしいと伝えましたが未だに署名・捺印をしてくれません。毎月の賃料は支払われています。このような場合でも賃貸借契約は成立しているのでしょうか。
賃貸借契約は、貸主と借主の合意によって成立し、契約書調印は契約成立の要件ではありません(定期賃貸借、保証契約は除きます)。本件では賃貸借条件について合意しているとのことですので、この合意の内容での賃貸借契約が成立していると判断するのが穏当でしょう。
契約書がなくても、借主が、合意していた賃貸借条件に違反し、この違反が賃貸借当事者間の信頼関係を破壊する程度のものであれば、貸主は借主の契約違反を理由に、賃貸借契約を解除することができるのは通常どおりです。
ただ、賃貸借条件について合意ができていると思っていても、いざ、契約書に記載してみると、当事者双方の認識に食い違いがあることに気づくことがあります。さらに月日が経過すると当事者の記憶も曖昧になります。何等かの使用制限、契約継続中の修繕の分担、明渡時の原状回復義務の範囲、違約金などのペナルティーの定め等々、書面化されていないと、契約違反か否かも不明確になるなど後日のトラブルの元になりかねません。また保証契約は書面でしなければ効力を生じませんから(民法446条2項)、連帯保証人付きの賃貸借契約は契約書が調印されていなければ保証人無しの賃貸借にしかなりません。やはり、契約の内容を明記した契約書は調印しておくべきでしょう(連帯保証人付きの場合は保証の極度額の明記と連帯保証人の署名・捺印も必要です)。
相談者におかれましては、借主に対し、改めて契約書の調印を求めることをお勧めします。それでも借主が応じない場合には簡易裁判所での民事調停手続を利用することもご検討ください。裁判所で契約内容の合意が確認できれば、調停調書という公文書で契約内容を確定させることができます。また、場合によっては裁判所が調停に代わる決定(民事調停法17条)で契約内容を確定させてくれる可能性もあります(双方からの異議申立てがなければ決定が確定します)。